メタボからの脱却

エッセイ

僕はメタボになった。
腹囲89センチ。体重77キロ。
ちなみに身長は174センチ。
日曜日の朝、シャワーを浴びた僕は、自分の腹を叩いてみた。
ペチンペチンと甲高い音が室内にこだまする。
メタボ腹で、自分の息子が見えないではないか………。
「あかん!」
一人嘆いた僕は、ジャージを着ると外に出た。

 

ふるさとプレミアム

 

ウォーキング

秋空の下、ウォーキング開始。
そよ風が気持ちいい。
住宅街から裏通りに入った。
10分後、右足の側面が痛み始めた。
ストレッチ後、少しペースを落とした。

前方からウォーキングをしているおじいちゃんがやってきた。
おじいちゃんと目があった僕は、すぐに視線を逸らした。
だっておじいちゃんの目が、
「若人よ……… 歩かないで走りなさい」という目をしていたからだ。

今度はランニングをしている女性が前方から迫ってきた。
マスクを着用してのランニングは、相当キツそうだと僕は感じた。
僕と目があった女性が、にやけた。
確実に女性の目じりが下がったのを、僕は見逃さなかった。
「歩いているなんて本末転倒よ。フフッ」 と思っていたに違いない。

恥ずかしくなった僕はUターンをしてマンションに戻った。



 

筋トレがマスト

3日後、ウォーキングに挫折した僕は、筋トレを開始した。
仕事帰りにホームセンターで購入したダンベル10キロを両手に持った。
そのままスクワットを始めた。
そう、ダンベルで腕回り、スクワットで尻と太ももを鍛える、
まさに一石二鳥である。

僕は尻を後ろに出っ張らしながら、尻を地面に向かって下げた。
「ぶぶっ」
しまった。
年甲斐もなしに、おならをしてしまった。
「痛えェ」
僕は思わず叫んだ。
おならをして気が緩んだ僕は、右手に持っていたダンベルを
足に落としてしまったのだ。
それも角ばっているところが、ちょうど足の指に直撃したのである。
僕はもんどりうちながら、呪詛の言葉を叫び続けた。

そのまま僕は病院に直行した。
右足小指の骨折だった。

 

 

最後の手段、オートファジー

見つけた。
やっと見つけた。
運動しなくても痩せる方法を。
その名もオートファジー。
16時間断食すれば、残りの8時間は何を食べてもいい。
しかも寝る時間も含めて16時間なのだ。
それにオートファジーは、DNAの修復まで期待できるとのこと。

「天は我に味方せり!」
叫んだ僕は寝た。

翌朝、時刻は11時を過ぎた。
今日は土曜日で会社も休みだ。
昨日の夕食を食べ終えたのが21時。
あと2時間で、空腹状態が16時間となる。
つまりオートファジー達成だ!
しかもお腹が全く減っていない。
イケる。イケるぞ。

それにあと2時間我慢すれば、何でも食べていいのだから。
「最高じゃないですかあ」
独り言を言った僕は、身支度を済ませるとスーパーマーケットに向かった。

 

 

オートファジーの結果は如何に!?

14時になった。
昨日から17時間、何も食べていない。

オートファジーの16時間より、さらに1時間我慢したのだ。
喉もお腹もカラカラだ。
テーブルの前には豪華な食事が並んでいる。
僕は発泡酒をグラスに注いだ。
「オートファジーに乾杯!」
空腹に発泡酒の味は、生ビール以上の美味しさに感じた。

「それではいただきます」
まずはさんまの塩焼きを頂いた。
だって秋ですものね。
次いでローストビーフと揚げ出し豆腐。
あっという間に発泡酒2缶を飲み干した。
久しぶりに食べたソース焼きそばが美味すぎた。

ここからレモンサワーに変更した。
おつまみはポテチとクッキー。
テレビをザッピングしながら最高の時間を僕は過ごしている。
これで痩せられてDNAまで修復されるのなら、マジで最高だ。
その後も僕は、レモンサワーをグイグイ飲んでいった。

「あかん」
時刻は19時を過ぎた。
今日は20時に食べ終えないと、明日に影響が出てしまう。
20時に食べ終えれば、明日は12時からまたこうして食べられるのだから。

僕はケトルでお湯を沸かしてカップラーメンを拵えた。
さらに冷蔵庫から888円のお寿司とエクレア2個をテーブルに並べた。
それらを僕は一気に平らげた。
「余は満足じゃ」
独り言を発した僕は、寝た。

日曜日も同様にオートファジーを行った。

月曜日の朝、シャワーを浴びた僕は体重計に乗った。
「80キロじゃん!」
3キロ増となった僕は、オートファジーを辞めることにした。

「ってか、もうダイエットはせん!」

メタボからの脱却ならず。

右足の小指に意識を向けながら、僕は会社に向かった。

 

 

【了】

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