大急運太郎と夕日

エッセイ

運転席から見える、7月の夕日。
今日の夕日はいつも以上に微笑んでいる。

海に溶けていく夕日を眺めるのが、大急運太郎の癒し。

にも関わらず、大急運太郎は大汗を流しながら、
大小様々な段ボールを小走りで運び続けている。



 

走らないと終わらない仕事っておかしくねぇ?

終わらない……。
走っても、走っても、終わらない。
段ボールが大急運太郎を嘲笑っている。

「こちらにサインを………ありがとうございます」

トラックに戻ると、大急運太郎の携帯電話が鳴った。

「お電話ありがとうござ……」
「再配達をお願いします。石川です」
「え………石川さんですね。かしこまりました。これからお伺いしますので……」
「うん。早くしてくれ」

これで再配達が16件となった。
トラックを発進させた大急運太郎。

100mも進まないうちに、また携帯電話が鳴った。
大急運太郎はトラックを停車した。
海水浴を楽しんだ家族連れやサーファーの車が通過していく。
夕日はまだ沈んでいない。

電話ではなくメールだった。
「集荷依頼。ゴルフバック1個。住所、尻野谷3939。幸喜朝功様」

時刻は18時59分。
再配達の受付は19時までだから、これが最後の集荷依頼だろう。
大急運太郎はペットボトルのサイダーを飲み干した。
今日だけで6本。合計で3リットルのジュースを飲んでしまった。

残り2時間で集荷依頼1件、再配達23件、
19時~21時間の時間指定荷物を11件、配達しなければならない。
他に不在の荷物が17件ある。
できれば不在の荷物17件も、再配達したい。
そうすれば明日が少し楽になる。
だけど時間が足りない。
これでも大急運太郎は、この時点で166個の荷物を配達完了していた。

 

ちなみに大急運太郎の1日は以下の通り。

8時、朝礼、トラックの点検、積み込み作業。
9時、点呼、支店出発。配達及び集荷。
12時、支店戻り。荷物発送。積み込み作業。

12時45分、支店出発。配達及び集荷。
15時、支店戻り。荷物発送。本土から到着分の荷物の積み込み作業。

15時30分、支店出発。配達及び集荷。
17時15分、支店戻り。荷物発送。夜間指定の荷物の積み込み作業。
17時45分、支店出発。トラックのガス抜き作業時に、弁当を食べる。

18時、再配達及び集荷。再配達の電話とメールが鳴り止まず、思うように配れない。
19時、夜間指定の荷物を配達。
20時45分、給油後、支店戻り。
不在荷物を所定の場所に置く。伝票整理及び精算。
21時15分、点呼、退勤。

大急運太郎は制服を脱いだ。
タオルで上半身を拭く。
本日3回目の着替えだ。
入社して3ヶ月、大急運太郎の体重は9キロも落ちた。

 

「よし。あと一息だ!」

大急運太郎の携帯電話が鳴った。
時刻は19時を過ぎているけど、しょうがない。

「6527…」
電話口から聞こえてきたのは、男性が数字を読み上げる声だ。
これは不在票に書かれている12桁の再配達番号である。
普通は名前と住所を告げるだけでいいのに、
男性はご丁寧に、再配達番号を読み上げている。
ちなみに大急運太郎の手元には伝票しかない。
つまり、伝票に再配達番号は書かれていないのだ。

「お客様………お名前とご住所を…………」
「5691…」
「お、お客様、まずはお名前から………」
「3114」
「すいません。お客様お客様。まずは………」
「ムアングチャイ」
「む、ム?」

大急運太郎は伝票から視線を上げた。

海面に、夕日の道ができていた。
大急運太郎は夕日の道に右手をかざした。

 

現在は働き方改革や新型コロナの影響で、
ドライバーの環境は大きく改善したと思います。

これからも物流無くしては、私たちの生活は成り立ちません。
どうか温かい目でドライバーさんを見守ってあげて下さい。

それと、安心して下さい!

大急運太郎は、今は支店長として活躍していますから。

 

【了】


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