いつもと感じが違う………
朝起きると、全身が熱かった。
「喉がめっちゃ痛い…」
体温は37.6度。
僕はすぐ発熱外来に連絡し、病院でPCR検査を行った。
担当医は僕の問診から、疲れが溜まっただけでしょう、
念のためPCR検査を実施しましょうと、軽いノリだった。
いやいやいや。
そんな訳があるか!
蛸。烏賊。
僕はかぜ薬、のど飴、スポーツドリンク、熱さまシート、
そして冷凍食品を1万円分購入して帰宅した。
夕飯に冷凍食品のカレーライスを食べた。
全く味がしなかった………。
翌日、看護師から申し訳なさそうに、
「コロナ陽性でございます」と言われた。
だから言ったじゃん!
阿保。頓馬。
僕はスマートフォンを投げると目をつぶった。
喉が猛烈に痛い。
唾を飲み込むだけで、のどに激痛が走る。
そして僕は大きく放屁した。
だけど僕はどこでコロナに感染したのだろうか?
キビシィ研修を終えて………
4週間前、上司から突然言われた。
飲食店を始めたい。
よって3ヶ月間、フランチャイズ研修に参加してきてくれ。
僕に白羽の矢が立った瞬間だった。
まさに青天の霹靂!
こうして僕は初めての飲食店に挑戦する事になった。
2週間前、フランチャイズ研修がスタートした。
まずは月曜日から金曜日まで、会社でzoom研修(終日)が行われた。
ドリンクの種類、容器、容量が何ccなのか、全て覚えなくてはならない。
さらにスナックもレシピ、分量までこの5日間で全て覚えなくてはならないのだ。
覚えるドリンクとスナックの種類は、ゆうに100種類を超える。
10年以上、勉強から遠ざかっていた僕は、絶望した。
だけど頑張らなくては。
まだ何も始まっていないじゃないか。
僕はzoom研修後、会社に残って3時間勉強してから帰宅する日々を送った。
その結果、金曜日に行われた筆記試験に無事合格した(90/100)
久しぶりの達成感に、僕は小躍りをしてしまった。
発泡酒からビールに変更し、いつも購入するお惣菜から、
3000円分のデリバリーに変更した。
自分にご褒美を与え、土日はゆっくりやすんだ。
翌週の月曜日から金曜日の5日間、都内に赴き、
実施研修(終日)に参加した。
久しぶりの満員電車に心が折れそうになった僕は、
火曜日から、ビジネスホテルに投宿する事にした。
満員電車の通勤が嫌なのと、これまた毎日勉強しないとついていけないからだ。
だけど投宿したビジネスホテルは狭くて暗くて、さらに乾燥していた。
枕も低くてふわふわ。
全く枕の役割を担っていなかった。
夜中に、隣の部屋からベッドが軋む音が聞こえた。
勿論、睡眠不足は連日続いた。
そんな中、金曜日に行われた筆記試験。
何とか合格できた(92/100)
「ばんざーい」
僕は狭くて暗くて乾燥している室内で、政治家並みの万歳三唱を繰り返した。
翌日の土曜日、研修店舗で勤務開始となった。
てっきり土日休んでから勤務開始と思っていただけに、
これは意表を突かれた。
ってか、本当に単純に休みたいと思っていたのに…。
そしてこの土日勤務が忙し過ぎて、僕はテンパった。
滅茶苦茶テンパった。
店長は土日休みだし、他の社員たちは忙しさにかまけ、
僕はほぼ放置プレイ。
お客様から質問されても何もできず、
ただ、店内を右往左往していた。
お昼休憩までの4時間のうち、トイレ休憩さえなかった。
翌日、疲労困憊の僕はお昼過ぎに温泉へ行った。
5種類の温泉に浸かり、サウナも2セット行い、整った。
帰りにスーパーマーケットに寄り、総菜とビールを購入。
15時から飲み始め、22時に寝た。
翌朝起きると、僕の全身は熱かった。
おそらく研修疲れと、寝不足、そして土日勤務で僕の疲労はピークに達した。
そこに追い打ちをかけるように、温泉とサウナでさらに僕は自身の体力を
疲弊させてしまったのだろう。
人間、変化をする時は苦痛を伴うのかも知れない。
動物たちは決して縄張りから出ない。
出れば食べられてしまうのを理解しているからだ。
人間だって、みんな自分の縄張りの中で生きていたい。
されど人間にはそれが難しい。
入学、入社、転職、引っ越しなど、環境の変化が存在するからだ。
果敢に挑んだ結果、無理ならすぐにやめればいい。
手放す事でもう一度再生できるのが人間なのだから。
僕もまさかコロナに感染するとは思いもしなかった。
まあ単純に、研修スケジュールがタイト過ぎたのだ。
コロナ陽性と判明したその日は、喉が痛くて一睡もできなかった。
何を食べても味はしない。
唯一、熱が37度台なのが幸いだ。
翌日、サッカーワールドカップ、日本対ドイツ戦を迎える事となった。
【後編に続く】
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