コロナ感染の中、迎えたドイツ戦
僕はベッドから状態を起こすと、腹の底から雄叫びを上げた。
「うおおおおォ」
8番が同点ゴールを決めたのだ。
「痛い痛い…喉が痛い」
僕は焼けるような喉の痛みに耐えていると、
「ゴホゴホッ………オエッ」
大きな咳と共に、痰が飛んだ。
見事、テレビ画面にスライムのような痰が付着した。
「おのれェ………」
コロナに感染して2日目、熱こそ37.8度だが、
喉の焼けるような痛さはもはやお手上げ状態。
常にのど飴を舐め、水分補給も心掛け、薬も飲んではいるが、
喉に関しては本当に焼け石に水だ。
ベッドから出た僕は、ティッシュを2枚取った。
テレビ画面に付着したスライムを拭き取った。
「あれっ………入った?」
僕がスライムを拭いたと同時に、18番が決めたではないか。
まさか本当にドイツから逆転した。
「ナイスぅ!!!」
僕は心の底、腹の底から叫んだ。
喉に激痛が走ったと同時に、また咳が出た。
また痰が飛んだ。
今度はテレビ画面を超えて、壁紙にスライムが付着した。
さっきよりも大きいスライムだ。
「コロナめェ………」
僕はスライムを拭き取ると、ベッドに戻った。
「アディショナルタイム長すぎるやんけ!」
大阪弁でツッコんだ僕は、またも激しくせき込んだ。
事前にティッシュを用意しておいたので、今度はスライムを飛ばさずに済んだ。
試合終了のホイッスルが鳴った。
優勝候補のドイツに逆転勝ちした日本代表。
僕はいま最高の気分を味わっている。
コロナがウザいけど………。
「ありがとう。僕は寝るよ」
しかし、唾を飲み込むだけで喉に激痛が走る。
これまた一睡もできなかった。
4日後のコスタリカ戦を迎えた。
僕の症状は悪化していた。
熱が38度台から下がらないのだ。
喉の痛みは幾分マシになり、3時間くらいは眠れるようになっていた。
だけど本当にコロナはしぶとい。
今まで苦しまされた風邪やインフルエンザよりも、破壊力が桁違いだ。
「あと15分で試合開始だ」
僕はドイツ戦同様に、ベッドに入った状態で観戦することにした。
枕を調節して試合開始を待った。
再びテレビ画面を見た僕は愕然とした。
0対1で日本が敗戦していたからだ。
まさかの寝落ちで、試合を見逃してしまったではないか。
それも敗れているし。
「腐れコロナめェ………」
僕は全力で放屁すると、寝た。
コロナに感染して10日目を迎えた。
待機期間の1週間と3日が過ぎた。
さすがに平熱に戻り、喉の痛みも感じなくなっていた。
だけど、から咳が出るのだ。
大きな声を出そうとすると、余計にから咳が出る。
ちなみに今日から職場に復帰したのだ。
研修で学んだ事を、僕は全て忘れていた。
店長からは気長にいきましょうと励まされた。
仕事終わりに、僕はスーパーマーケットに寄った。
「それでは復帰に乾杯!」
10日振りに僕は缶ビールを飲んだ。
「美味すぎるやんけ!」
またも大阪弁でツッコんだ僕は、
あかにし貝と鳥皮ポン酢でグイグイ飲んでいく………。
明日は休みだ。
本当に優しくて気遣いのできる店長。
マジでナイスガイです。
そして明日の早朝には、決勝トーナメントをかけたスペイン戦が待っている。
コロナから回復してよかった。
まだ少しだけ味覚が戻っていないけど。
僕は〆の鮭の雑炊を喰らって寝た。
翌朝、また僕は大声で叫んだ。
痰を飛ばす事はなかったけど、今度は声が飛んでしまったのだ。
だってそうだろう?
誰がドイツとスペインに勝利すると予想しただろうか?
誰が日本を予選1位通過と予想しただろうか?
予想をいい意味で裏切る時、人の声は飛んでしまうのだ。
2日後、声が飛んだままの状態で僕は出勤した。
すると店長が真顔で言った。
「お大事になさって下さい」
「いえっ…実は………」
「大丈夫です。声がかすれているのはコロナの後遺症でしょ」
店長は僕に一例すると、レジに向かった。
つまり僕はコロナの後遺症のため、帰れと言われたのである。
ワールドカップを見て声が飛びましたと、僕は言えなかった。
店長の真顔が怖かったのだ。
うくくッ………。
僕のコロナ感染とサッカーワールドカップでした。
みなさん、くれぐれもお気をつけて下さいませ。
【了】
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