ここは郵便局ですよね?【珍客現る】

エッセイ

あらやだ。どうしようかしら………80代女性

定形外封筒を出しに郵便局へ行った。
朝から快晴で風も涼しく感じる。
僕はゆっくりと歩いてきたおばあちゃんを先に通してから入店した。
するとおばあちゃんは僕と同じ窓口に進んだ。
まあ仕方がない。
一日一善だと思えばいい。

「ご用件はなんでしょうか?」
局員の女性がゆっくりとした口調でおばあちゃんに尋ねた。
僕は気づいた。
おばあちゃんは手ぶらじゃないか。
「孫の住所を知りたいのよ………あなた、ご存じないわよね?」
局員の女性の目が明らかに大きくなった。

おばあちゃん、what`s?

「申し訳ございません………お孫さんの住所はこちらではわかりかねます」
「あらやだ。どうしようかしら………」
おばあちゃんの小さな背中が、さらに小さくなった気がした。
「ちなみにお孫さんには何を送りたいのですか?」
「それは言えないわよ。うふっ」
おばあちゃんが笑った。
えっ?………どこで笑うタイミングがあったの?

僕は後ろを振り返った。
出入り口の先まで長蛇の列が出来ていた。
午前中の郵便局は混むのだ。
「奥様、こちらへどうぞ」
局長と思われる男性の声に導かれたおばあちゃんは、
一番奥の待合席に座った。

ってか、ここは郵便局ですよね?



郵政解散だォ! 70代男性

この日も僕は通帳を新しくする為に郵便局へ行った。
曇天で今にも雨が降り出しそうだ。
番号の書かれたレシートを持って待合席に座った。
14時の郵便局は空いている。

3番席の男性が席を立った。
ナイスタイミング!
僕も席を立った。
すると男性が言った。
「郵政解散したっぺ? あれがピークなんだォ」

おじいちゃん、what`s?

席を立ったおじいちゃん。
わずかに腰が曲がっている。
「おかけください」
局員の女性が声をかけるも、おじいちゃんは微動だにしない。
「もういいォ。おれも解散だォ」
おじいちゃんが後頭部をボリボリかいた。
店内にいる他のお客さんたちも知らん顔をしているけど、
確実に聞き耳を立てているのが容易にわかる。

ってか、ここは郵便局ですよね?

 



 

局員の女性が咳払いをしてから言った。
「かしこまりました。では本当に口座の解約でよろしいですか?」
「そうだォ………郵政解散だォ」
満足したのか、おじいちゃんが3番席に座った。

口座の解約をしに来たおじいちゃんは、
どうしても郵政解散と表現したかったようだ。
それくらい当時の政治に、郵政解散に思うところがあったのだろう。

「あ?………さかさまに押しちまったよォ」
どうやら解約書類に届出印を捺印するも、
逆さまに押してしまったようだ。
局員の女性の目が垂れている。
笑いを堪えている証拠だ。
「大丈夫ですよ。印影がはっきり見えますから」
「それならいいわ。はぁこえッ」
おじいちゃんはゆっくり立ち上がると、
後頭部をボリボリかきながら帰って行った。

ちなみに「はぁこえッ」は疲れたという方言です。

二度あることは三度ある。
今日も僕は郵便局へ向かうのであった。

最後までお読み下さりありがとうございました。

もちろん実話でございます。

珍客を見かけたら、どうか温かく見守ってやってください。

 

【了】


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